作成日: 2016年6月19日 ... 最終更新日: 2017年1月28日
ヘイト法施行で対立は激化、通行人に危険も?
差別発言自粛も、対立グループが大勢で取り囲み…
2016年6月19日 8:00![]() |
渋谷でも反対グループが道路に座り込んでデモ側とにらみあいとなり、DJポリスが沈静化を呼び掛けた=5日午後3時半、東京・渋谷 |
■渋谷に「恒例」の混乱…主張かみ合わず騒ぎは加速
休日の人出でにぎわう東京・渋谷駅周辺が5日午後、怒声ともみ合う群衆で騒然となった。右派系市民グループのデモに対し、反対グループが集まり、中止を求めて詰め寄った。通行人が不安げに見つめる中で交通はまひした。
こうした光景は、都内をはじめ全国で見られてきた。
「朝鮮人をたたき出せ」「ゴキブリ、ウジ虫は日本から出てゆけ」
これまでは、在日コリアン排斥などを中心に、時に過激な言動で声高に主張する右派系市民グループに対し、反対グループが周囲からメガホンで「レイシスト(人種差別主義者)帰れ」と叫んだり、中指を立てたりしながら、激しく威圧する構図。対立が傷害事件にエスカレートしたこともあった。
ただ、5日の渋谷のデモは様子が違った。排外主義や人種差別のスローガンは影を潜め、右派系市民グループは主に共産党を批判する呼びかけに終始した。背景にあったのはヘイトスピーチ解消法だ。警察当局は同法施行を受け、名誉毀損(きそん)や侮辱、暴力など、デモをめぐる違法行為に厳格対応する方針を通達していた。
施行後初のデモとなったこの日、主催者側は摘発に警戒感をにじませ、参加者には「差別発言や暴力的行動は絶対にやめて」と念押ししていた。
一方、反対勢力は以前と同様に差別主義に抗議する声を上げた。このため双方の「主張」はかみ合わず、群衆が入り乱れる混乱だけが加速するいびつな事態が際だった。
■双方が怒声の応酬、20人が600人に取り囲まれ…
渋谷の混乱には、前段があった。この日の正午前、在日コリアンへの差別的言動を繰り返していた団体が川崎市内で計画していたデモが中止に追い込まれた。
「中止しろ」「帰れ」
約20人のデモ隊を反対派の約600人が取り囲む。双方がもみ合い、激しく言い争う中、「実施すれば危険な状況になる」との神奈川県警の示唆を受け、主催者側は中止を決めた。
このデモをめぐっては、事前から危機感が高まっていた。同市は5月末、主催者側は在日コリアンへの差別をあおるヘイトスピーチを繰り返したとして、別の公園2カ所の使用不許可を決定。横浜地裁川崎支部も、一定範囲のデモ禁止を命じる仮処分を決定した。
反対派は、集合場所の公園周辺に開始予定時刻の前から集まり、主催者側を包囲。進路を防ぐため、座り込み、寝転ぶ人もいた。デモの目的は「日本浄化」とされていたが、実行されず、実際にどのような主張がされたかは不明だ。だが、中止が決まったことで反対派の気勢はあがった。
「ヘイトを止めた」「渋谷も中止させる」。川崎ではこうした声があがったため、警備する警視庁にも緊張が走った。結局、渋谷では川崎規模の反対派は集まらなかったが、デモ開始直後から、進路をふさごうとする人が次々と車道に寝転んだり、参加者に飛びかかろうとしたりして大混乱になった。
雑踏警備で知られる「DJポリス」も登場し、「危険行為はやめてください」などと連呼するが、混乱は収まらない。同法施行を意識して「不当な差別的言動のない社会が実現されるようなデモをお願いします」との呼びかけもあった。
《レイシスト帰れ》。歩道にはプラカードを持つ人や、メガホンで声をあげ、中指を立てる姿も。一方、「差別してないぞ。お前ら邪魔だ」と怒り詰め寄るデモ参加者もおり、警察官が懸命に制止した。
「言論の自由を妨害するな」「ヘイトデモをやめろ」。双方の主張はかみ合わないまま、デモは午後4時半ごろまでに終了したが、反対グループが参加者を取り囲もうとするなど騒ぎが続いた。
■加速する混乱、「高まるリスク」に懸念深まる
「ヘイトスピーチ解消法が右派系市民グループの言動に影響を与えたのは確かだ」。ある公安関係者はこう前置きした上で「反右派勢力が川崎の事例を『成果』と捉え、勢いづけば、衝突がエスカレートする恐れもある」と懸念する。
警察当局によると、こうした衝突はすでに3年以上も続いている。きっかけとなったのは右派系市民グループが排外主義を掲げるデモなどを始めたことだ。
右派系市民グループは、平成18年ごろから活動を始めたとされる。既存の右翼とは一線を画し、プラカードを掲げ、シュプレヒコールしながらデモ行進する市民運動のスタイルを取り入れ、インターネットを活用した宣伝や署名活動などが特徴とされる。
こうした中、一部のグループは21年末ごろから、新宿駅周辺で排外主義を掲げるデモなどを始め、25年1月からは新宿・大久保地区の在日コリアンが集まる「コリアンタウン」周辺で過激な発言を伴うデモや威迫を行うようになった。
同時期に登場したのが、対抗行動を行う反右派勢力だった。右派系市民グループのデモに対抗し「衝突」は都内各地に拡散。全国に広がって過激化をたどり、暴行などによる検挙も相次いだ。
「これまでもそれぞれに説明を尽くし、協力を求めてきた。だが、現状は理解を得られているとはいえない」。警察関係者は話す。「極左を排除しろ」「レイシストを守るな」。デモの警備を担当する警察は双方から激しいクレームを受けながら、通行人など周囲の安全も確保する難しい対応を強いられている。
「法律施行の影響は未知数だ。われわれはあくまでも中立に、違法行為に厳正対処する立場は同じ。今後も安全確保を徹底する」。警察幹部は厳しい表情で語った。
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